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カテゴリ:超短編小説( 1 )

忖度

年の瀬も押し迫ってきたある日、年末の有給休暇に入った早苗は近所の大型ショッピングセンターに来ていた。
いつものように立体駐車場に車を停め、店内に続くエスカレーターに乗ろうとしたその時、
不安げな表情を浮かべて一人でたたずむ小さな男の子の姿が目に入った。

辺りを見渡しても誰もおらず、おそらく迷子だろうと思った早苗は男の子に近づいて行った。
「どうしたの? お母さんは?」早苗がそう聞くと、その男の子は言葉にならない声をもごもごと発するばかり。
「名前は?」 「どこから来たの?」「迷子になったの?」困った早苗がいろいろと尋ねていると、
男の子はか細い声で「こわい・・・」と言った。

ようやく男の子の気持ちを確認できた早苗は、
一階にあるインフォメーションセンターに男の子を連れて行くことにした。
男の子の手を引こうと、「お姉ちゃんと一緒に行く?」と聞いたその瞬間、
男の子が「お姉ちゃん?」とはっきりとした口調で早苗の言葉をオウム返しして、
誰もいない周りをきょろきょろとし始めた。

驚きのあまり早苗の目は見開かれ、心臓はまるでたった今全力疾走を終えたかのように激しく脈打った。
それは、何を聞いても理解できない言葉ばかり発していた男の子が、
はっきりと「お姉ちゃん」と言えたからでは決してない。
「お姉ちゃん」という言葉に反応した男の子が、
目の前にいる早苗がまるで透明人間になったかのように認識できなくなったことに驚愕したのだ。

慣れ親しんだこのショッピングセンターがオープンしてから早19年。
その長い年月の間に、自分がもはやお姉ちゃんではなくなったという事実を、
生まれてまだ3年目くらいの小さな男の子にまざまざと思い知らされた気がした。
「ごめん、間違えた。 おばさんと一緒に行く?」 そう言い直しながら、
早苗が小刻みに震える手を差し伸べると、男の子はこっくりと頷きその小さな手で早苗の手をぎゅっと握ってきた。

早苗が男の子の手を引いて一階のインフォメーションセンターに到着すると、
すぐに迷子だと察した女性スタッフが、説明する間もなく慣れた様子で男の子を抱き上げた。
安全な場所に連れて来られ安心した様子の男の子を見届けた早苗は、静かにその場を離れると目的の店へと向かった。

しばらくすると、屋内のスピーカーから迷子のお知らせのアナウンスが流れた。
買い物を続けながら聞き耳を立てていると、その子の名前ではなく着ている服や特徴などが告げられていた。
自分の名前すら言えない子が、きょとんとした顔をして「お姉ちゃん?」と突っ込んできた瞬間を思い出すと、
早苗は笑いが止まらなくなった。

「この店が開店したての頃は、おばさんだってお姉ちゃんだったのよ」そう呟きながら、
ふと今年の流行語大賞が「忖度」という言葉だったのを思い出し、
あの子が大きくなった時に相手の気持ちを推し量ることが出来る人間になってくれたらいいな・・・と、
切に願う早苗なのであった。





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by peko_tin2 | 2018-02-13 06:00 | 超短編小説